コラム

副院長室から

雪山リスクマネジメント その症状と対策(1) 低体温症[1]

2009年夏に北海道・トムラウシ山で起きたツアー登山者の大量遭難。この遭難では、8人の登山者が低体温症により死亡した。この遭難がきっかけで「低体温症」という言葉が登山者をはじめ、一般にも認知されるようになったが、どういう症状で、どういう処置が必要なのかはあまり知られていない。

 そこで、低体温症や凍傷の症状や処置について雪山初心者の雪子さんとのQ&Aで分かりやすくまとめてみました。

 

【低体温症とは】

船木ドクター まず低体温症について考えてみよう。山で寒い思いしたことはない?
雪子さん 最近は山にいくと雪が降るので、晴れると美しいけれど、風が強いととても寒い思いをします。休憩のために立ち止ると、特に汗をかいているとき、どんどん体が冷えてきて、しまいには震えてきます。でも、歩き出すと震えは止まりました。
ドクター 通常、体の温度は一定に保たれているけど、それが寒さのため下がりだすと、体が震えだしてこれ以上下がらないように筋肉から熱を出すようなる。心臓・肺・脳など大切な臓器がある体の真ん中の温度を深部体温というのだけど、これはふつう37度以上。これが、35度以下になった状態を低体温症といいます。

 

【低体温症の早期発見】
雪子さん たった2度下がるだけで低体温症になるのですね。平成21年にトムラウシ山で8人の登山者が低体温症で亡くなる痛ましい事故がおこりましたが、低体温症ってどうやったら発見できるんですか。
ドクター 深部体温はなかなか現地では測れないので、症状の変化で低体温症って気が付くことが、早期発見に結びつくよ。次の点に気を付けてね。

 

●震えが出たりとまったりするだけでは低体温症でないけど、次第に震えがひどくなり、止められなくなったら危険信号
●歩くのが遅くなり、みんなから遅れる
●岩場を歩くのが困難になる。つまりバランスが悪くなる
●ゆっくりと間延びしたしゃべり方になる。精神的にも反応が遅くなる
●プツブツ言う。不平をもらす。非協力的になる

 

雪子さん 低体温症になるとみんなについていけなくなるのですね。
ドクター 低体温症を一言で言うと「疲労感」だ。低体温症の場合、体を動かすのに大変多くのエネルギーを消費する。だから、疲労凍死なんて言い方も、昔使われたのだ。

 

【低体温症になりやすい人】
雪子さん 低体温症になりやすい人っているの?
ドクター そう、人によって同じ気象条件でもなる人、ならない人がいる。子供、お年寄り、疲労やけがしている人、水分や栄養を取ってない人、アルコール飲んでいる人がなりやすいよ。糖尿病や心臓病の人もなりやすい。

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ボウルのスキー滑降を楽しんできた羊蹄山を背にする船木と山崎。美しい雪山には低体温症の危険がひそむ。2011年2月、京極で。

 

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PROFILE ふなき・かずさ 1956年東京生まれ。1981年3月23日、北海道大学在学中にモンブランでクレバスに落ちて16時間宙吊りになり低体温症に陥る。1983年北海道大学医学部卒業。同学部循環器内科に入局。1989年苫小牧東病院開院。現在、社会医療法人平成醫塾苫小牧東病院常務理事、副院長としい地域医療に貢献している。著書に低体温症の罹患体験を記した「凍る体?低体温症の恐怖」(山と渓谷社、2002年)がある。

岳人 2012年2月号NO.776 平成24年1月14日発売
発行人/熊倉逸男 編集長/廣川建司
発行所/東京新聞 出版部 〒100-8505 東京都千代田区内幸2-1-4 中日新聞東京本社
印刷所/大日本印刷株式会社 ©東京新聞(中日新聞東京本社)

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