コラム

副院長室から

雪山リスクマネジメント その症状と対策(3) 低体温症[3]

【重症の低体温症に対する処置】
雪子さん 32度以下と恩われる重症の場合はどうしますか。
ドクター 心臓が動いている場合は、搬送はできる限り丁寧に扱って心室細動を避けること。水平位を保つこと。四肢はこすってはいけないよ。加温はしてよいが、以下の禁止行為を守って。

 

●再加温するまで、座位、立位は禁止
●食物や飲み物を与えてはいけない
●歩かせて再加温しようとしてはいけない

 

雪子さん 心臓が止まった場合はどうしますか。
ドクター まず心拍、呼吸の有無を60秒間観察し、なければ3分間の換気(口口呼吸)をする。その後60秒間観察して、もし循環の兆候がないときは次の2通りに分かれるよ。

 

●心電図モニターがなく3時間以内に病院に着く場合は心臓マッサージをしないこと。ただし、加温と換気(毎分12回)はつづける
●心電図モニターがなく病院に着くまで3時間以上かかる場合は加温・換気しながら心臓マッサージをする

 

3〜6時間心肺蘇生して助かった人もいるんだよ。野外での心肺蘇生では3割の人が助かったという報告もある。でも、救助者の疲労、安全を十分考慮に入れること。表2にステージによる処置の違いをまとめておいたよ。

 

表2 低体温症のアルゴリズム
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※ICAR International Commission for Alpine Rescue 1988の資料より

 

【低体温症の予防】
雪子さん 低体温症になると命にもかかわるので、予防するためにどうしらいいの?
ドクター 以下にまとめてみる。

 

①こまめな衣類交換。寒く感じたら一枚余分に着たり、汗をかいできたらファスナーを開けたり脱いだりするなど、こまめに着脱し、濡れた場合は着替えること。十分に防寒、防水、透湿能力のある衣服を着用し、頭から指先まで。帽子、手袋、スパッツなどで身を固める
②厳しい天候下では、長い休憩はしないこと
③震えが止まらない場合はさっき言ったように、避難・保温・加温
④カロリーのある食事を、行動前、そして行動中に頻繁に取る。また定時的な水分補給。熱の源は食べ物だね。食事から得られたエネルギーの花%以上が結局は熱になるんだ。繰り返し行動中に糖質を含んでいる食べ物を口にするのが、熱産生の点で大切だよ
⑤天候の変化を常に考慮すること
⑥低体温症のメンバーが出た場合のルートを常に考えておくこと

 

雪子さん 本日教わったことを身に付けて、実際の山で使えるようにします。ありがとうございました。

 

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ボウルのスキー滑降を楽しんできた羊蹄山を背にする船木と山崎。美しい雪山には低体温症の危険がひそむ。2011年2月、京極で。

 

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PROFILE ふなき・かずさ 1956年東京生まれ。1981年3月23日、北海道大学在学中にモンブランでクレバスに落ちて16時間宙吊りになり低体温症に陥る。1983年北海道大学医学部卒業。同学部循環器内科に入局。1989年苫小牧東病院開院。現在、社会医療法人平成醫塾苫小牧東病院常務理事、副院長としい地域医療に貢献している。著書に低体温症の罹患体験を記した「凍る体?低体温症の恐怖」(山と渓谷社、2002年)がある。

岳人 2012年2月号NO.776 平成24年1月14日発売
発行人/熊倉逸男 編集長/廣川建司
発行所/東京新聞 出版部 〒100-8505 東京都千代田区内幸2-1-4 中日新聞東京本社
印刷所/大日本印刷株式会社 ©東京新聞(中日新聞東京本社)

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