コラム

副院長室から

雪山リスクマネジメント その症状と対策(4) 凍傷[1]

ドクター 次に凍傷についての話をしよう。
雪子さん 私子供のころ霜焼けになったけど、凍傷とはどう違うの?
ドクター 凍傷は指や顔の寒さによる障害で、組織が凍結してしまう、つまり細胞の中や周りに氷の結晶ができてしまう。無風のとき皮膚はマイナス2度で凍る。もし風が吹き、さらに低温であれば、凍傷になりやすくなる。霜焼けは零下でなくても、寒さのために局所の血流が低下するためにおこり、組織は凍結しない。
雪子さん 凍傷になりやすい人がいるみたいだけど。
ドクター なりやすい人は汗かきの人、体格が小さい人、皮下脂肪が少ない人、喫煙者、凍傷に一度なったことのある人だ。凍傷になりやすい場所は手足の指・鼻・頬・耳。原因としては、寒冷、濡れ、風のほかに、紐の締めすぎや靴のサイズが小さいことなどがあるよ。組織は凍結するだけでなく血流障害がおきダメージを受ける。
雪子さん 凍傷は自分で気がつくの?
ドクター 凍傷のなり始めは、指がジリジリして痛むけど、次第にその感じがなくなり、ついには手や足先の感覚が全くなぐなってしまう。ほかのことに気を取られていると、皮膚の感覚がないことに全く気がつかないこともある。
雪子さん 凍傷になると皮膚はどうなってしまうの?
ドクター 初期のうちは、皮膚を見ると赤みがあり、水泡(水ぶくれ)ができることもある。ここまでは表在性凍傷で予後はよい。さらに悪化すると患部がろうのように白くなったり、さわっても感じなく、やがて見た目に黒く炭のようになってしまうこともある。ここまでくると皮膚の一番下の真皮まで凍傷になり、皮膚全体が壊死する。これを深部凍傷といい、外科処置、切断が必要なこともある。
雪子さん もし感覚がないことに気付いたら、どうしたらいいの?
ドクター 現場では風の当たらない場所に移動し、靴下・手袋が濡れていれば交換し、手や足を仲間の脇か股に置かせてもらって叩分だけ温める。その結果、感覚が回復すれば歩行してもいいよ。でも、感覚が回復しなければ皮膚は凍結しており、それを溶かさなければいけない。近くの小屋に行こう。小屋では容器(コッフエルなど)にお湯を入れ手や足を浸し、急速に加温(37?39℃)する。焚火やストーブを使う加温はしてはいけないよ。均一の加熱ができず、火傷の危険もあるからだ。
雪子さん 何分くらい温めるの?
ドクター 凍傷したところの温度が他の部位と同じ温度になるまで、あるいは色が改善するまで温めよう(20?60分)。温かい物を飲み、アスピリンを飲もう。これは痛み止めと血流改善の効果がある。また、浸しているお湯の温度を一定に保つために時々お湯を追加しよう。風呂より少しぬるめがいいよ。加温が終わったら乾かして、ゆるくガガーゼ、包帯をあてよう。可能なら痛めた手、足を心臓と同じ高さに挙げよう。また凍傷した部分は感染しやすいので清潔に保つように。時間が経過すると水ぶくれができてくるけど、それを壊さないこと。壊れた場合は念入りに消毒を行い、軟膏は用いてはいけない。加温していると強烈な痛みが襲ってくる。これは復温が成功したことを示し組織が生きている証拠だ。

 

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ボウルのスキー滑降を楽しんできた羊蹄山を背にする船木と山崎。美しい雪山には低体温症の危険がひそむ。2011年2月、京極で。

 

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PROFILE ふなき・かずさ 1956年東京生まれ。1981年3月23日、北海道大学在学中にモンブランでクレバスに落ちて16時間宙吊りになり低体温症に陥る。1983年北海道大学医学部卒業。同学部循環器内科に入局。1989年苫小牧東病院開院。現在、社会医療法人平成醫塾苫小牧東病院常務理事、副院長としい地域医療に貢献している。著書に低体温症の罹患体験を記した「凍る体?低体温症の恐怖」(山と渓谷社、2002年)がある。

岳人 2012年2月号NO.776 平成24年1月14日発売
発行人/熊倉逸男 編集長/廣川建司
発行所/東京新聞 出版部 〒100-8505 東京都千代田区内幸2-1-4 中日新聞東京本社
印刷所/大日本印刷株式会社 ©東京新聞(中日新聞東京本社)

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